熊本県立芦北高等学校(通称:芦高<あしこう>。以下、芦北高校)とのアマモを対象とした共同研究体制も、54ヶ月目(年度では6年度目突入)となりました。
同校のアマモ場造成活動は、今年度で21年度目!となり、皆さまの応援も頂きながら実施されています。
今年度(2023年4月~)の当社(アグリライト研究所)の立ち位置は、昨年度までと同様に、
熊本県立芦北高等学校からの講師役依頼により、林業科 アマモ班と継続的体制で研究を進めて参ります。
ご参考:
2018~2021年度においては、
公益財団法人水俣・芦北地域振興財団(平成30年度~令和3年度 環境技術研究開発
研究開発題目『定植事業の規模拡大を後押しする 「植物工場技術」を用いた高定着率アマモ苗の効率的大量生産技術の確立』
プロジェクト事業においてアマモを対象とした研究を進めておりました。
(これまでの芦北高校との活動記録は、本ページ最下部のリンク集(計40本)からご覧下さいませ)
今シーズンの芦北のアマモですが、例年あたり前に生育していた「多年生アマモ(地下茎が発達しほぼオールシーズン生育するアマモ)」が
生育していない現象が起こっています(2023年1月の活動ブログ御参照)。
この多年生アマモの花枝(種を蓄えている葉)を用いて、これからアマモ場を造成したいエリアに移植して、アマモ場を増やし続けていますが、
今シーズンは、アマモラボ(芦北高校内のアマモ生育用水槽が並ぶ実習室)で生育させたアマモ苗しかなく、
例年より移植数がグッと少ない状態になってしまいます。
そこで、今月(2023年5月)は、アマモ移植苗確保の検討~下見、
芦北高校発案のアマモ場造成方法「ロープ式下種更新法」を実施しましたので、記録します。
<5月1日 : アマモ場観察と移植アマモ苗生育場所の視察>
↑ 昨年5月のほぼ同じ潮位時点での比較ですが、天然アマモ場(多年生アマモ)が消失しております。
下の画像では、堤防から画像右側(北にあたります)の天然アマモ場があるところは、波がおだやかになりますが、
今年はアマモが少なく、それも見られません(昨年5月のアマモ場ブログ御参照)。
林業科 前島先生からの連絡で、芦北高校が20年ほど前のアマモ場造成で移植するアマモ花枝を採取していた「隣の湾」に行ってみよう!
というお声がけで、私自身は初の訪問。宮下先生と3名で観察。
↑ 地元の漁師さんから情報では、随分アマモは減っているが・・・との声ですが、
アマモ花枝が確認できました。ここは多年生のアマモ場のようです。
・・・ということで、今シーズンのアマモ場造成のメインイベント「ロープ式下種更新法」に用いるアマモ花枝は、
このエリアから採取することになり一安心です(前島先生により各漁港などには連絡)。
「遺伝的攪乱の配慮」についても同じ八代海であるのと、20年ほど前もここから採取して実際アマモ場拡大に向かった実績もあるので、
クリアーと考えております。
尚、隣の湾(下図の左下位置)と、いつものアマモ場造成エリアの位置関係は下記のとおりです。
<5月8日 : 隣の湾(花枝採取場所)の干潮時訪問>
↑ 見事なアマモ場が見られました。あわせてサギなども食を求めて集まっており、これぞ「アマモ場」風景が見られました。
<5月19日 午前中 : ラボ活動>
今年度の水槽においてのアマモ生育比較試験は昨年度同様に、
「光」(LEDにより照明する時間・強さ・色・点滅・・・などの設定が可能な条件です)を
テーマとするリクエストにより、昨年度までと同様 に、新3年生へ講義&実習です。
当日は芦北高校への取材も入っており、短縮バージョンでの実施となりました。
↑ (画像左上)まずは、筆者(園山)により概要説明を行い(照度ではない尺度があります)、
(画像右上)北野研究員により、植物への光の単位「PPFD(光合成光量子束密度)」についてレクチャー。
(画像下側)その後、バトンタッチし、筆者(園山)が測定機器「光量子計」の使用方法・センサー扱い作法をレクチャーし、
赤色多めの光環境水槽内、青色多めの光環境水槽内、白色に見える光環境水槽内の、照明からほぼ同じ距離の位置でPPFDを測定してもらい、
ヒトの明るさ見た目とPPFD値の関係性を伝えました(明るく見える白色に見える光環境でもPPFD値はほぼ同じ・・・のストーリー)。
アマモの生育環境も、アマモ自体も、数値化しないと比較できないし、数値化により後輩にも試験成果が継いでいけます。
電球にみえる光量子センサー(黄色矢印)は、1年・2年先輩の代でも利用しましたが、今年度も活用。研究に向けてラボで使える環境としています。
(センサー初登場(2021年2月・ページ展開後下の方<光量子測定>)、PPFDとは・・・の ページ 御参照)
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【PPFD値】とは(補足)
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照度はヒトが感じる明るさの単位(緑色が多いと明るく感じる)ですが、
植物(ここではアマモ)の光の感じ方は、照度ではなく光の粒の量で示すもので、
PPFD値(光合成光量子束密度:光合成に有効な波長400nm~700nmの範囲で、
1秒あたり・1㎡あたりの光量子の数)を用います。
例えば、青い光と白い光のPPFDが同じ量の光が当たっていても、
ヒトには白の方が明るく感じますが(緑色成分が多くあるので)、青い光の方が暗く感じます。
植物の光合成に必要な光は同じですが、照度とPPFDは違いがでます。
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ちなみに、水槽に実装している「青赤照明」は2018年の試験で使用していたものが再登場。
(商品としての説明ページ:本来は苗用で開発したもの)
海水利用環境のラボですので、灯具の錆は増加中ですが、まだまだ性能維持で活躍しています。
↑ レクチャー後も、アマモラボでの取材が続きました。
<5月19日 午後 : ロープ式下種更新法(アマモ場造成方法)>
ランチ後、フィールドへ~(午後も、取材が入りながらの活動となりました)
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【ロープ式下種更新法】とは(補足)
芦北高校が独自で考案した2009年から採用しているアマモ場造成手法です。
同校では2003年より、アマモの繁殖方法として「普通移植法」「ドンゴロスマット法」「粘土活着法」「割り箸固定法」「実生ポット苗法」などを実践、
工数の多さ、コストの面から、効率性に課題があると感じていたようで、
林業科の活動より「天然下種更新法」を参考とした自然に近い条件で、大面積を大幅な効率化を実現できることから、この手法を考えられたそうです。
アマモ種子が数多く含まれる「花枝」状態のものを選別して、それをアマモ場造成したい場所に置き、
自然環境にまかせて花枝が腐食することで、種子が散布され海底に沈み、そこから新しい生活環が生まれる。
種を撒く作業より面的・量的にも大規模になります。
実際、活動開始の2003年のアマモ場面積「2,500㎡」が、2018年には20倍の「50,000㎡」まで拡大しました。
(その後、昨年2020年の大雨で残念ながら大部分は 消失 してしまいました)
なお、ロープ式下種更新法については、2014年熊本県が発行の「漁業者のためのアマモ場造成マニュアル」
( https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/life/126692_240132_misc.pdf 約14Mのpdfファイルです)にも掲載されております。
上記ファイル展開後23ページ。補足として、アマモ花枝をロープに括り付ける方法として、現在は環境配慮もあり分解しやすい紐を用いております。
ご参考:芦北高校の「ロープ式下種更新法」アマモ場造成活動の記録
2022年版、 2021年版➀、 2021年版➁、 2020年版、 2019年版
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↑ (画像上側)前島先生から、アマモの群落から採種する「花枝」の見分け方と採取作法についてレクチャー。
(画像下側)その後、アマモ場に入り花枝採取を進めます。毎年ですがアマモ場の生物を次々発見し盛り上がります。
↑ (画像左上)ここ最近では、新たなアマモ場での活動(花枝採取)となり、空撮も実施(芦北高校からの依頼)。
当社では昨年度まで毎月のアマモ場データ採取でもお世話になりました、地元の高峰さんによるオペレーション。新たな機種が用意されていました。
(画像右側)底質の採取。前島先生へ大まか採取のご協力いただき、当社・北野研究員がサンプリング。
なぜこのエリア(隣の湾)は多年生アマモが生育し、毎年多年生(天然自生)アマモが見られたエリアでは消失したのか、
各エリアで採取し、昨年度までの保有データと比較分析を行ってみます。
↑ 風も潮位上昇による波もない良いコンディションで、ぞくぞくとアマモ花枝の束ができあがります。
船の上が集積基地、ロープに一定間隔で結んでいきます。
↑ その後、いつものアマモ場造成エリアに移動。
今シーズンの「ロープ式下種更新法」の仕掛けは、内海(堤防より北側の多年生アマモ場消失エリア)に行います。
例年、外海(堤防より南側)、長年の造成活動により拡大してきたアマモ場(2020年7月の大雨により消失も)に仕掛けていましたが、
今シーズンは、まずは内海のアマモ場を復活させないことには・・・ですので、次のシーズンからもアマモ花枝できるようにと想いをのせて設置します。
今回の設置により、
まずは、種子散布「5万粒(理論値)」(ロープ45メートル)(一束20株の花枝✕約25カ所)を終えることができました。
芦北高校の開発した「ロープ式下種更新法」ですが、
自然に任せて種子が放流されるので、別の機会での種子選別や種子散布イベントを行う必要がなく、効率のよい方法かと感じています。
他のエリアでも「ロープ式下種更新法」が普及すれば嬉しいですね。
(ご参考:【拡がっている事例(対岸の漁協+御所浦小学校の取組)】
https://www.agri-light-lab.co.jp/?p=6380
↑ 取材陣の方々にお礼を伝え、フィールドの活動は終了となりました。
<5月20・21日(ロープ式下種更新法しかけ日の翌日・翌々日)>
仕掛けの日は小雨ふる天候でもあったので、晴れの日の干潮時間に再訪。
内海に仕掛けがある違和感ですが、次のシーズンにはアマモ場が見られることを願いたいところです。
今シーズンの「ロープ式下種更新法」は、もう1機会、来月6月の大潮干潮時近辺にも実施する予定とのことです。
(上側画像は、5/20(前島先生画像提供)。下側画像は、5/21筆者(園山)撮影。左下の画像では、画像左側が内海(ロープ端が見えます)となります。)
(一日違いでほぼ同じ潮位ですが、海水の濁り具合がまるで違って見えます。下側画像の5/21は下げ潮時間に訪問しましたが、
風が強く海水が動くことで、底質の巻き上げられてしまい濁ります)
芦北のアマモ場は、堤防から、ウェーダー等の装備なしで観察できるので、非常に紹介しやすい恵まれた場所と考えています。
皆さま、是非、熊本県の「芦北町」においでくださいませ!
(画像右上の柑橘は「でこぽん」。芦北高校(農業科による生育)から当社宛てにお礼として頂戴しました。有難うございます!)
尚、上記5月19日の芦北高校への取材分は、
「真相報道バンキシャ!」(日本テレビ系列)にて、
5月28日(日曜日)放送予定です。
(放送日が急遽変更になる可能性もあります)
追記:アーカイブがyoutube上で見られます
https://www.youtube.com/watch?v=wSEeCwCBiNE
芦北高校ブログ でも今回の取材について紹介されております。
≪ご参考:芦北高校との活動記録リンク集≫
【2018年12月】 : 共同研究体制スタート。アマモ班と初顔合わせ。
【2019年 2 月】 : 芦北高校に当社研究水槽設置。アマモ班との座談会。
【2019年 3 月】 : 深夜の定植活動
【2019年 4 月】 : 明るいときの定植活動(この月より最干潮時間が陽が高い時のため)
【2019年 5 月】 : 花枝採取、マリンチャレンジプログラム授与式
【2019年 6 月】 : ロープ式下種更新法でのアマモ場造成
【2019年 7 月】 : 土壌採取、分析
【2019年 8 月】 : 土壌採取、分析、取材
【2019年 8 月】 : 芦北高校「優秀賞」
【2019年 9 月】 : アマモ観察、採取
【2019年10月】 : アマモサミット・芦北高校もプレゼン
【2019年11月】 : アマモ観察、採取(この月より最干潮時間にあわせて深夜活動)
【2019年12月】 : アマモ移植(試験区設定)、観察、採取、取材
【2020年 1 月】 : アマモ移植(試験区設定)、観察、採取、当社ラボ見学来訪
【2020年 2 月】 : アマモ移植(試験区設定)
【2020年3・4月】 : アマモ移植(試験区設定)、観察
【2020年 5 月】 : アマモ試験区観察、採取
【2020年 6 月】 : ロープ式下種更新法でのアマモ場造成・試験区観察・ドローン飛行による撮影・芦北町環境基本計画掲載
【2020年 9 月】 : 豪雨後の記録1<堤防から見た画像>
【2020年 9 月】 : 豪雨後の記録2<上空・水中から見た画像>
【2020年10月】 : アマモ種子選別
【2020年11月】 : アマモ観察、移植(試験区設定)、種子洗浄、海辺の自然再生・高校生サミット2020
【2020年12月】 : アマモ観察、移植(試験区設定)、「高校生マイプロジェクトAWARD in 熊本・益城」
【2021年 1 月】 : アマモ観察、移植(試験区設定)、空撮画像取得開始
【2021年 2 月】 : アマモ観察、移植(試験区設定)、アマモ種子試験、空撮画像取得、光量子測定
【2021年 3 月】 : アマモ観察、移植(試験区設定)、アマモ種子試験、空撮画像取得、高校生マイプロジェクトAWARD 全国summit
【2021年 4 月】 : アマモ観察、移植(水槽生育分)、アマモ種子試験、空撮画像取得、マリンチャレンジプログラム授与式
【2021年 5 月】 : アマモ観察、移植(水槽生育分)、ロープ式下種更新法、アマモ種子試験、空撮画像取得
【2021年 6 月】 : アマモ観察、移植(水槽生育分)、ロープ式下種更新法、空撮画像取得、日本沿岸域学会参加
【2021年 7 月】 : アマモ観察、空撮画像取得、くまもと環境賞受賞
【2021年 8 月】 : アマモ観察、空撮画像取得、マリンチャレンジプログラム全国大会出場へ
【2021年 9 月】 : アマモ観察、空撮画像取得、アマモ種子選別、アマモポット苗作成
【2021年10・11月】 : アマモ観察、移植(試験区設定、水槽生育分)、空撮画像取得、アマモ種子選別、光量子測定、SPAD値測定
【2021年12月】 : アマモ観察、移植(試験区設定、水槽生育分)、空撮画像取得、SPAD値測定
【2022年 1 月】 : アマモサミット・芦北高校もプレゼン
【2022年1・2・3月】 : アマモ観察、移植(試験区設定、水槽生育分)、空撮画像取得、SPAD値測定、水槽環境構築、マリンチャレンジプログラム全国大会、サイエンスキャッスル九州大会
【2022年 4 月】 : アマモ観察、空撮画像取得、水槽構築、光量子測定
【2022年 5 月】 : アマモ観察、空撮画像取得
【2022年 6 月】 : ロープ式下種更新法、空撮画像取得
【2023年 1 月】 : アマモ観察、移植(試験区設定)+4月追記(アマモ場昨年比較)
【2023年 5 月】 : アマモ観察、ロープ式下種更新法、芦北高校への取材(「真相報道バンキシャ!」(日本テレビ系列)(5月28日(日曜日)放送予定))